非熱プラズマを用いたDPFの低温再生(すす除去)について

(日本機械学会,第14回環境シンポジウム2004原稿より)

大阪府立大学 環境保全学研究グループ

 

1. 緒言

ディーゼルエンジンは、他の内燃機関に比べて熱効率が高い、CO2排出量が少ないなど のことから自動車、船舶などの各種機械装置の動力源として広い範囲で活躍している。しかし近年、ディーゼルエンジンからの排気ガス、特にNOx(窒素酸化 物)及びPM(粒子状物質)により引き起こされる、都市部での大気汚染問題と人体への影響が大きな社会問題となっている。我が国では2000年度、自動車 からの全NOX排出総量は約64万トンで、そのうち約80%がディーゼル車由来とされている。またPMのある特定地域における自動車の寄与率は約40%で、100%ディーゼル車からの排出である[1]。

本研究では、前報[2 - 6]に引き続きディーゼルエンジンのPM捕集のため、近年使用されているDPFの、プラズマによる低温再生について検討した。非平衡プラズマとDPFを組み合わせることで、酸化されたNO2とDPFで捕集されたすすを反応させ、300℃付近でのDPFの再生を試みた。

排気ガス中に含まれるすすはDPFによりほぼ除 去される。しかしDPFに求められる重要な機能として、捕集したすすを燃焼させて除去すること(DPFの再生)がある。通常、すすの着火温度は約600℃ と非常に高く、DPF中に捕集されたすすが排気熱で自着火し、再生することは難しい。本研究では以下の反応(1),(2)をプラズマにより促進し、DPF を低温再生をすることを目的とした。

NO+O →NO2 …(1) 2NO2+C →2NO+CO2 …(2)

従来、(1)の反応は酸化触媒により行ってきたが、250℃の温度が必要であり,酸化効率も50%程度である。プラズマを用いることによって常温に近い低温で高効率に行うことができる。DPFの低温再生により、その寿命を長く保つことができる。

 

2. DPF再生実験の実験装置及び実験方法

2.1 DPFについて

今回の実験で用いたDPFは、Fig.1に示すような構造で[7 - 10]、材質はコージェライト、セル構造は17 milの100 cpsi、直径46 mm、幅50 mmである。

 

Fig.1 Structure of the Diesel particulate filter(DPF)

2.2 プラズマリアクターについて

Fig.2に本実験で用いた針−バリア平板式プラズマリアクターの形状を示す。リアクターはアクリル板で形成されており、正方形の接地電極のサイズは128 mm×128 mmである。針電極とアクリルバリアの間の距離は10 mmで、バリアの厚さは2 mmである。針の数は10×10=100本である。針の存在する領域は110 mm×110 mmの正方形領域である。プラズマリアクターにおけるガスの滞留時間は流量1 L/minの場合に10.2秒である。一般的には1秒程度の滞留時間で空気を完全に活性化するために十分であることが知られており、流量はさらに増加させることができると思われる。大気はプラズマリアクターを通り、誘起された活性成分O、O2*、O3、N、OHなどが発生する。それが排気管に注入され、NOがNO2に酸化される。

 

Fig.2 Barrier-type needle to plate plasma reactor for remote nonequilibrium plasma

2.2 DPF再生実験

DPF再生実験の実験概略図をFig.3に 示す。今回は模擬排気ガス及び実排気ガスを用いて行った。模擬排気ガスは2.0 %のNOボンベガスと乾燥空気を混合し、流量、濃度を調整したものである。また実排気ガスは、ヤンマーディーゼル社製のディーゼル発電機の排気ガスの一部 をポンプでサンプリングし、流量調整したものである。発電機はヤンマーディーゼル社製で、単気筒、直噴射方式、排気量200 cc、回転数3600 rpm、最高出力2.0 kWである。

Fig.3 Experimental setup

実験条件は模擬排気ガス及び実排気ガスのガス流量9 L/min、リアクターに流す乾燥空気の流量1 L/minである。プラズマリアクターにはIGBTパルス電源で電力を投入し、周波数840 Hz、印加電圧は約33 kVである。

プラズマリアクターによって励起された乾燥空気を模擬排気ガス及び実排気ガスに混合する。DPFは管状炉ヒー ター内のステンレス管(直径58 mm、長さ555 mm)に挿入されている。、ステンレス管内のガス温度はヒーターによって300℃に設定する。なお、DPF内部のすすの減り具合を調べるため、DPFの両 端の差圧を半導体式微差圧変換機(共和電業社製 PDV-25GA)を用いて測定した。また分析器を用いて各ガス濃度を測定した。

 

3. 実験結果と考察

模擬排ガスを用いた場合のDPF前後の圧力差の変化とガス温度の変化をFig.4(a)に、各ガス濃度をFig.4(b)に示す。ガス濃度は15分ごとに測定、DPFの前後の差圧及びガス温度は自動で測定した。

グラフより、プラズマonではDPFの圧力損失が低下し、offにするとその勾配は緩やかになる。最終的には2.7 kPa→1.0kPaまで減少した。また、onではCO、CO2の濃度が増加し、すすの燃焼が行われていることがわかる。しかしNOの濃度も増加していることから、実際には以下の反応が起きていることがわかる。

C + 2NO2 → CO2 + 2NO

C + NO2 → CO + NO

Fig.4(a)  Elapsed time vs temperature and pressure difference

Fig.4(b) Elapsed time vs gas concentration

また、HC(炭化水素)を含む小型ディーゼルエンジンの実排気ガスを用いた場合の結果をFig.5(a)、(b)に 示す。実排気ガスを用いた場合でも同様に、プラズマonでは圧力損失は減少し、offにすると勾配が緩やかになっていることから、DPFの再生が行われて いることがわかる。この実験ではあらかじめ36mgのすすをDPFに2時間ためて再生を行った。再生時にはDPFの上流にフィルタと乾燥器を設置し、すす の絶対濃度を0.6mg/hに保って実験を行っている。そのため、offの状態では圧力損失は増加せずにほぼ一定になっている。

また、Fig.6は模擬排気ガスを用いた場合の再生実験前後のDPFの写真である。すすが燃焼除去されて白くなっいていることがわかる。

Fig.5(a)  Elapsed time vs temperature and pressure difference

Fig.5(b) Elapsed time vs gas concentration

(a) Before regeneration

(b) After regeneration

Fig.6 Photographs of DPF before and after regeneration

 

4. 実ディーゼルエンジンへの適用可能性の検討

排気量3リットルの自動車用ディーゼルエンジンの各種パラメータから、実ディーゼルエンジンへの適用可能性の検討を行った。以下に概要を示す。実エンジンでは、すすの濃度はおよそ80 〜 830 mg/Nm3(低負荷時〜高負荷時)であるが、本実験結果より非平衡プラズマで再生し得るすすの濃度は、およそ65 mg/Nm3と計算される。このことから、低負荷時にはプラズマ再生が適用可能レベルである。

次にエネルギー効率であるが、本実験では前報[7-8]に比べてエネルギー効率SEDの値は向上した。SEDは次式で定義される。

SED = 16.7 P/Q  (Wh/m3)

ここでPは放電電力(W)であり、Qは流量(L/min)である。小さいSEDで大量のガスを処理できるほど効率が高いことになる。本実験では、SED = 22 Wh/m3(=78 J/L)と見積もられる。更なるリアクター形状や構造の改造により、SED = 3 Wh/m3が達成できた場合には、3リットルクラスディーゼルエンジンに対して必要な電力は約670 Wと見積もられ、実用のレベルに達する。

プラズマによるDPF低温再生技術は、ここ5年以内の近年に検討が開始された技術であるが、下流に設置されたNOx還元SCR触媒の活性化も期待でき[9]、非熱プラズマ環境保全技術のうちでも将来性の期待できるものの1つである。

 

5. 結言

DPFの低温再生を目的とし、リモート非熱プラズマを用いた無触媒低温再生方式を提案し、実際に再生試験を行った。主要な結果は以下のようにまとめられる。

(1) プラズマ処理された空気を排ガスに注入する方法で、直接排ガスをプラズマ処理するのと同程度以上の性能で、NO をNO2に酸化できる。この方法は温度上昇によるプラズマ性能低下が避けられる有力な技術である。

(2) リモート非熱プラズマにより微粒子の蓄積したDPFを再生する実験を行い、圧力差と質量変化の計測から、プラズマ印加時に圧力損失が低下し、300°Cの低温で再生が行われていることが確かめられた。また前報の2倍程度の再生速度0.47 g/(L・hr)を達成した。なお実エンジンにスケールアップした場合、低負荷時にすすがDPFに蓄積するのと同程度の速度で再生が可能である。

(3) DPFの再生開始直後にCO2とCOの濃度が急激に上がり、プラズマによるNO2と酸素ラジカル等によるすすの低温燃焼が生じる。特にNO2は約60%還元されNOに戻る。

(4) 本方法はエンジン始動時、エンジンブレーキ作動時などの排ガス低温条件で、酸化触媒が有効に作動しない場合の有力な再生法である。さらには無触媒であるため触媒の燃料中の硫黄による被毒の影響を受けない。

(5) SEDの値は22 Wh/m3 であり、更なるリアクター形状や構造の改造により、SED =3 Wh/m3が達成できた場合には、3リッタクラスディーゼルエンジンに対して必要な電力は約 670 Wと見積もられ、実用レベルに達する。

(6) 今回の再生実験により、模擬排気ガスの場合だけでなく、炭化水素を含む実排気ガスを用いた場合でもDPFの再生を確認することができた。

 

参考文献

[1] 小高松男, 超低エミッションディーゼル機関への挑戦, 日本機械学会誌(2002).

[2] 大久保, 山本,“非熱プラズマを用いたDPFの再生法について”, 静電気学会誌, 26-6, pp.254-255, (2002).

[3] M.Okubo, T.Miyashita, T.Kuroki, S.Miwa and T.Yamamoto,“Regeneration of diesel particulate filter using nonthermal plasma without catalyst”, Proc. 2002 IEEE/Industrial Application Society Annual Meeting, CD-ROM, total 8 pages, 2002.

[4] T.Yamamoto, M.Okubo, T.Kuroki and Y.Miyairi,“Nonthermal plasma regeneration of diesel particulate filter”, SAE paper, No.2003-01-1182, 2003(presented at 2003 SAE World Congress, Detroit, Michigan, March 3-6, 2003)(total 8 pages).

[5] M. Okubo, T. Kuroki, Toshiaki Yamamoto and S. Miwa, “Soot Incineration of Diesel Particulate Filter Using Honeycomb Nonthermal Plasma”, SAE paper, No.2003-01-1886, JSAE 20030309 (2003) (total 8 pages).

[6] 大久保 雅章,三輪 真一,黒木 智之, 山本 俊昭,“ハニカム内に発生させた非熱プラズマによるディーゼル微粒子フィルタの低温燃焼再生”, 機論,69B-688, pp.2719-2724 (2003).

[7] 山田,“大気汚染防止に活躍するハニカムセラミックス”, 日本セラミックス協会, 第27回高温材料技術講習会資料, (1995)pp.1-8.

[8] 小川, 小笠原, “ハニカムセラミックス・過去, 現状, 将来”, セラミックデータブック‘99, 工業と製品, 27-81, pp.219-224, 1999.

[9] P.Kojetin, F.Janezich, L.Roth and D.Tuma, “Production experience of a ceramic wall flow electric regeneration diesel particulate trap”, SAE paper, NO.930129, Feb., 1993.

[10] Y.Ichikawa, S.Yamada and T.Yamada, “Development of wall-flow type diesel particulate filter system with efficient reverse pulse air regeneration”, SAE paper, NO.950735, Feb., 1995.