ポイントコロナ放電における三次元静電流体シミュレーション

Numerical Simulation of Three-Dimensional Point Corona and Electrohydrodynamics

(日本機械学会関西支部講演会2004から)

大阪府立大学 環境保全学研究グループ 

1. 緒言

産業用電気集塵装置 (ESP) において主流へのイオン風(電気風)の影響は小さくなく,静電流体,微粒子挙動,捕集効率にも大きな影響を及ぼすことが報告されてきた[1]. しかしながら,従来の解析は正極コロナに代表される二次元解析に限られてきた.実用化されているESPは負極性コロナ(タフト)や放電線状にポイントを用 いる電極構造が多い.微粒子の荷電,微粒子挙動を正確に理解するためには三次元の静電場,流体場の解析が要求される.この結果,より正確な微粒子挙動,電 気集塵効率の理論式への展開が可能になってくる[2]. 本研究では前報(3)に続き,流体計算モデルを乱流としポイントコロナとなる突起型放電形状に対する結果を以下に報告する.

2. 数値計算

電場を支配する基礎方程式はMaxwellと電流保存の式であり,三次元の解析は山本らによって報告されている(4). 流体解析は電場解析からの電界強度と空間電荷密度の積が外力として含まれるNavier-Stokesの方程式を解いた.なお,今回は突起型放電極であるので,放電はその突起点から起こるとした.

計算は実際に用いられているESPの運転条件と同様な電圧(V=40kV), 電流密度(J=0.3mA/m2), 放電線対平板電極間距離(d=0.15 m),  放電線間距離(2Sx=0.16 m),  突起点間隔 (Sz=0.025m)で放電線2本,4本の場合の電場,流体場の計算を実施した.図1に突起型放電極ESPの座標と計算領域を示す.

突起の位置は放電線の両側に25mm間隔でその方向は集塵板に向いている.計算は乱流モデル,アルゴリズムはSIMPLE法を用い,グリッド数は(213x 61x 13)とした.境界条件し入口及び固体壁面は流速固定条件,ただしイオン風の入口,出口の境界条件は自由流出,及び対称条件に対応し周期境界条件として計算を行った.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fig. 1 Computational domain for the point ESP

 

3.結果と考察

図2に放電線2本の場合,Z=0.0125 mでのx−y平面での電圧分布(V)を示す.電圧分布はz方向にゆっくりと減少し,空間電荷の影響も少ない.電場の計算手法は文献 [4] に示す.

Fig.2 Voltage distribution in the x-y plane at z=0.0125 m for the two-wire configuration

 

次に三次元の静電流体場の結果を主に述べる.

放電線2本では主流のないイオン風の分布図を図3に示 す.図から突起のあるポイントから流れが発生し集塵板に当たり上方に反転,また集塵板に向かう渦状リングとなりそれぞれが入口,出口方向に移動している. 突起の位相差により放電線をはさみ渦状リングが集塵空間に見られる.

主流が存在する場合,無次元EHDnumber(NEHD)を用いて述べる.なお,NEHDは集塵板上の電流密度Jpから求めたイオン風速UEHDと主流速度Uとの比である次式から求めた.

NEHD=UEHD/U/ U ここで d=放-集電極間隔,ρはガス密度,μはイオン移動度である.図4 (a), (b), (c) は放電線4本あるESPでz=0.025mにおける(a) NEHD=3.3, (b) NEHD=0.66, (c) NEHD=0.33 の場合の流体場を示す.この位置は突起のない中間部位である.いずれの場合も各放電線の近傍から集塵板に向かう渦状リングが見られる.そしてNEHDが 増加するに伴いスパイラル状渦流の形成が増大し,流体場への撹乱,乱流の増大していることがわかる.これは前報でのタフトコロナ線対平板電極での流体場と 同じような結果を示している.突起があることによりスパイラル状渦流がより明確化し,ガス流れ方向にその渦流に沿ったサイクリックな荷電粒子の移動が起 こっていると考える.

Fig.3 Secondary flow distribution with U=0.0 m/s,V=40 kV, z=0.0125 m for the two-wire configuration

 

 

 

 

 

 

 

(a)

(b)

(c)

Fig.4 Flow interaction for the four-wire configuration z=0.025 m (a) NEHD=3.3, (b) NEHD =0.66, (c) NEHD =0.33

 

結言

突起型ESPの三次元静電流体の解析を実施した.線対平板電極と同様に流体場はイオン風が突起点から吹き出し集塵板にて反転し,リング状の渦を形成する.また,主流があればNEHDが増加するにつれスパイラル状の一対の渦流をガス流れ方向に形成するのが顕著となる.三次元の電場,静電流体場の解析により集塵理論へのより明確な展開が期待される.

 

参考文献

[1]  T. Yamamoto and H.R. Velkoff, J. Fluid Mech. (1981), 108.pp. 1-18.

[2] T.Yamamoto, T.S. Nakamura and H.R.Velkoff, Innovative Nurmerical Analysis for Applied Engieering Science, (Ed.R.Shaw),Univ.Press of Virginia,Va,1980,pp.3-12.

[3]  守田,黒木,大久保,山本, 日本機械学会講演論文集 NO.304-1,2003.3,pp.15-17.

[4]  T.Yamamoto, and L.E.Sparks, IEEE Transaction on Industry Applications, IA-22,No25, (1986),pp. 880-885.