非平衡プラズマを利用したガラス表面処理の研究

         
          大阪府立大学 環境保全学研究グループ

プラズマによる表面改質の研究は近年,特に高分子材料の表面改質に関して,幅広く研究が行われている.これらは,塗料の付着性の向上,接合性の増加,表面洗浄などと関連して多くの工業的応用が考えられている.
これらの技術においては,一般的に通常RFプラズマやマイクロウエーブがプラズマの生成のために用いられ,減圧装置を必要とする.加えて,ガスの温度上昇 のために冷却系を必要とすることも多い.そのため,高いエネルギを必要とし,処理プロセスが低速で処理効率も低い.一方,大気圧非熱プラズマ技術を利用すれば,装置が単純化され,減圧装置も必要なく消費電力も少なくて済む.すなわち,通常のプラズマプロセスに比べ多くの利点をもっている.
 本研究では,非熱プラズマを利用したガラスの表面改質をとりあげ,自動車のフロントガラスのワイパの代用を目的とした,ガラス表面の親水,撥水効果向上 に関する実験結果を紹介する.交流高電圧(無声放電)を用いたプラズマリアクタにより,ガラス表面を処理し,水滴の接触角測定装置により撥水,親水の増強 効果を調べた.


Fig.1 Contact angle between glass surface and liquid droplet

図1にガラス基板の上に置かれた1個の水滴にかかる力を示した.液滴とガラス基板に対する力の釣り合い式は以下のように書ける

γS =γL cos(θ) +γSL         (1)

γS = ガラスの表面張力,γL = 液体の表面張力
γSL = 液滴とガラスの間の表面張力,θ = 接触角

ガラス基板の表面張力あるいは表面エネルギが増加すると,接触角は小さくなりガラスの親水性が増加する.一方,液滴の表面張力が増加あるいはガラス基板の表面張力が減少すれば,接触角が減少し撥水性が生じる.プラズマの照射はガラス基板の表面エネルギを増加させ,ガラスの濡れ性あるいは親水性を増加させる働きをする.


Fig.2 Schematic of the experimental setup

実験装置の概略図を図2に示す.無声放電リアクタは1対の平行円柱状アルミニウム板電極からなっている.直径73 mm の上部電極には直径 2 mmの30個の穴があけられている.同一の直径をもつ下部電極ディスクは誘電体で覆われており,その上にガラス板のサンプルが置かれている ガラス表面と上部電極の距離は3 mmに保った.ガスはリアクタ上部の管から流入し,30個の穴から流出してガラス表面に一様にあたる.その後,ガスは電極間から出て,下部排出管から排出される.電極間には 60 Hz のAC 高電圧 (15 kV, 最大30 mA) が印加され電極間でマイクロディスチャージを形成する.
背景ガスとしては窒素,ヘリウムに比較して効果の高かった乾燥空気(相対湿度3%),を使用した.乾燥空気はコンプレッサーからの空気をエアフィルタとシ リカゲル乾燥器に通して作成する.流量はマスフローコントローラで調節した.ガラスサンプル表面の液滴の接触角は接触角測定装置(CA-DT)を使用し た.
耐久性試験では,自動車のワイパを模擬した装置により,一日約1時間半の間,毎分33回の割合でワイパをかけ続けた.その後1日外気中に放置し,次の日に再びワイパをかける.ワイパをかけている間,雨の日を模擬するために,水をかけ続けている.


Fig.3 Voltage dependent durability test on glass sample

プラズマ処理されたガラスの親水耐久性について調べた.3種類のプラズマ処理されたガラスサンプル(処理電圧13 kV, 15kV および17 kV,流量1.0L/min,プラズマ処理時間1min)を,そのまま外気に合計5日間放置した.各日の終わりに接触角を測定した.結果を図3に 示す.3種類のサンプルとも1日後には接触角が3.3°から15°〜20°程度まで増加している.実際に接触角は7時間の放置で 10°を超えていた.5日後には親水特性はすべてのサンプルでほとんど失われている.小さい接触角を長時間維持するためは,プラズマ励起グラフト 重合処理等が有効とも考えられる.


Fig.4 Durability test for hydrophobic TAS coating combined with plasma

市販されているガラス表面の撥水処理剤トリ−アルコキシ−シラン(TAS)とプラズマ処理の併用による撥水耐久性の向上を調べたプラズマの照射条件は流量1.0 L/min,照射時間 1分,印加電圧 20 kVである.耐久性テストにおいては,4種類のサンプルが自動車の電動ワイパを模擬した装置により,断続的に,毎分33回の割合でワイパ処理される.実験結果を図4に示す.横軸はワイパ処理の合計時間である.

サンプル1 はTASをガラス表面に塗り,清浄な布で拭き取り処理したもので,接触角の標準値を得るために用いた.
サンプル2 はプラズマをまず照射し,次にTASを塗布し,余分なTASをふき取ったものである.
サンプル3 はサンプル2の手順を逆にしたもので,まず,TASを塗布しその後プラズマ処理して余分なTAS液滴をふき取ったものである.
サンプル4 はまずTASを塗布し,余分なTAS液滴をふき取り,その後プラズマ処理したものである.(以上,表を参照)

サンプル1はTAS の塗布により初期接触角は108°でありワイパ処理によって70分後には接触角は90°まで低下した.ここで接触角90°は製品 として使用できる限界の接触角である.一方,サンプル2の耐久性は,限界値に達するまでの時間が330分まで増加し, TAS塗布処理のみを行ったサンプル1の耐久性の約4.7倍の値を得た.サンプル3の耐久性は400分まで増加し,サンプル1の耐久性の5.7倍の値を得 た.サンプル4は初期からサンプル1と比べ親水特性を示した.
以上から,TAS撥水剤とプラズマ処理を適切に組み合わせることで,撥水持続効果を5倍以上まで高めることができることが明らかになった.

プラズマによる表面活性効果(OHラジカルの形成)と撥水剤の組み合わせで,強固な被膜が形成されたものと考えることができる。