放電プラズマによるフェノールの分解

(2003年度修士発表要旨から)

大阪府立大学 環境保全学研究グループ 

1. 緒論

近年,工場等から出る排水処理が重要な課題と なっており,特に特定の有機物質を処理することが求められている.微量でも極めて有害な微量環境汚染物質の問題が顕著化してきたからである.従来,有機物 を含んだ排水処理には活性汚泥を用いた生物処理方法が広く利用されている.しかし,この生物処理方法では微量環境汚染物質,芳香族化合物,難分解性有機物 が除去できない.そこで,現在研究が推められているのが高度酸化プロセスによる排水処理である. 

高度酸化プロセス(Advanced Oxidation Process : AOP)は,オゾン(O3),二酸化チタン(TiO2),過酸化水素(H2O2),紫外線(UV)などを複合的に組み合わせ,OHラジカルを生成しその酸化力を利用して酸化処理を行うもので,促進酸化といわれている.

本研究は,フェノールの分解実験を通して,促進酸化処理の1つである放電プラズマ処理の特性を明らかにすることを目的として行ったものである.放電プラズマ処理とは,処理対象溶液をプラズマ照射により発生するラジカル,O3,UV,衝撃波などを利用して分解する処理方法である.

2. 実験装置及び実験方法

2.1 リアクター

本研究で使用したリアクターをFig.1に示す.高電圧印加側の極板は上下可変で,水面との距離(プラズマ照射距離)を変えることができる.極板は円盤型と,円環型の2種類を準備した.また,アース電極は外径1/4インチ,長さ100 mmの管状で,先端から3.5 mmの部分に直径3 mmの穴があいており,電圧印加中にガスを吹き込むことができる.また,リアクターに吹き込むガスはAir,Ar+Air(混合比1:4),H2O2の3種類を用いた.

Fig.1 リアクター概略図

2.2 実験方法

Fig.2に本研究で使用した実験装置の概略図を示す.まず,500μmol/L (47 ppm)のフェノール溶液50 mLをピペットでリアクターに測り入れる.そして,リアクターをIGBT電源,オシロスコープに接続し,電圧を印加した.各吹き込みガスであるが,Airは流量を0.25 L/minに調節した後リアクターに吹き込んだ.Ar+Airは,ArとAirの流量をそれぞれ0.05 L/min,0.2 L/minに調節後AirとArを混合して総流量0.25 L/minでリアクターに吹き込んだ.H2O2は流量0.25 L/minに調節したAirをH2O2水溶液に通した後リアクターに吹き込んだ.除去率の測定には液体クロマトグラフを使用した.

Fig.2 実験装置概略図

 

3. 実験結果と考察

吹き込みガスと除去率について

以下に実験結果の一例を示す。Fig.3にAir,Ar+Air,H2O2の三種類のガスを吹き込んだ時の除去率を示す.

Fig.3 吹き込みガスの種類と除去率

円環型極板を用いてプラズマ照射距離15 mmで実験を行った.促進酸化による処理では,OHラジカルが酸化剤として作用し,フェノールを分解する.O3やUV単体だけでもフェノールの分解は行われるが,その分解量は少ない.本研究におけるOHラジカルの生成過程は,大きく分けて3通り考えられ,以下にその反応式を記す.

(1) O3/UVプロセス

本実験中全ての条件下で起こる反応でプラズマによって生成したO3とUVによるものである.

O3 + H2O + hν → O2 + 2OH

(2) H2O2/UVプロセス

ガス吹き込み処理の実験においてH2O2を吹き込んだ時に起こる反応である.

H2O2 +  hν → 2OH

(3) O3/H2O2プロセス

(2)と同様,H2O2吹き込み実験において起こった反応である.

H2O2 + H2O ⇔ H3O + HO2-

O3 + HO2- + H+ → OH + HO2 + O2  

OH + O3 → HO2 + O2

HO2 + O3 → OH + 2O2

OH + H2O2 → HO2 + H2O

こ のOHラジカルの生成過程をもとに各ガスごとの除去率の比較を行う.Airのみを吹き込んだ時よりも,Arを吹き込んだ時の方が高い除去率を示している. Arは希ガス元素であり,吹き込むことでより多くのプラズマエネルギーを発生させることができる為であると考えられる.電圧印加中のリアクター内はAir 吹き込み時に比べ明るく光っており,発光量(紫外線量)も増えていると思われる.従って,Airよりも多くのUVがO3に作用し,OHラジカルの生成量が増え,除去率が高くなったものと考えられる.

次にH2O2を吹き込んだ時であるが,本研究で使用した3種類のガスのうち除去率が最も高かった.H2O2を吹き込んだ時は,(1)〜(3)の3種類が連鎖的に起こりながらフェノールを分解する為, OHラジカルによる酸化反応が最も多く起こっていたと考えられる.その影響で除去率が最も高くなったと思われる.

2.4 結論

放電プラズマを用いたフェノールの分解実験において最高97 %の分解率(H2O2吹 き込み,プラズマ照射距離15 mm,処理時間60 min)を達成することができ,ほとんどのフェノールを分解できた.促進酸化を用いた処理ではOHラジカルによる部分が大きいことから,リアクターの改良 によって,より多くのOHラジカルを生成し,処理対象溶液と反応しやすい状態にすれば,より短時間で処理できると思われる.